南海トラフ地震による最大震度分布

1、地下の震源断層モデルと地表の震度

2、観測で得られた、沈みこんだフィリピン海プレート上面の深さと固着域

 西南日本の下に沈みこんだフィリピン海プレートは、日本海の海岸付近では100km以上の深さに達しています。
 その位置はフィリピン海プレートの中を伝わってくる地震波の速さの解析などで、以前より明らかになっています。
 研究グループにより解析結果は多少異なりますが、中央防災会議の2003年のモデルより浅いことが分かってきました。
 上の図は、中央防災会議が今回採用したモデル。黒線はプレート境界の等深線です。2003年のモデルより5〜10km浅くなりました。

 また、深部低周波地震という弱い地震を観測できるようになりました。
 深部低周波地震は、プレートどうしの固着が失われる場所で発生していると考えられています。したがって深部低周波地震が発生している深さまで、プレートどうしは固着しています。
 プレートどうしが固着している領域が、地震発生時には高速ですべって地震波を発生する領域になります。そこで、海溝から黄色の線で囲った領域までのプレート境界面が、震源断層になります。

3、強震断層モデル

 地震波の発生を見積もる断層モデルを、今回から「強震断層モデル」と呼んでいます。

 断層全体を4つの部分(セグメント)に分けています。これは今までの分け方と変わり、呼び方も変わっています。
 御前崎付近と潮岬付近を通る線で震源断層を分けています。

 御前崎から東を「駿河湾域」、御前崎と潮岬の間を「東海域」としています。今までの想定東海地震震源域は御前崎付近で分けられ、東側が「駿河湾域」、西側は今までの想定東南海地震震源域と合わせて「東海域」にしています。「東南海」という呼び名は無くなっています。

 「南海域」は想定南海地震震源域とほぼ重なりますが、西側に「日向灘域」が加わりました。

 新しい区分の「東海域」は、今までの「想定東海地震震源域」と一致しないので、混乱が心配です。「南海トラフ地震東海域」という言い方が良いかもしれません。

 他方では、明応東海地震や安政東海地震は、今回の「東海域」か、「東海域」+「駿河湾域」で発生しているので、歴史上の「東海地震」との整合性は良くなりました。

 今後、30年以内の地震発生確率も見直されるかもしれません。新しい「東海域」では1944年に東南海地震が発生しているので、「駿河湾域」で1854年以降地震が発生していないことにもとづく従来の東海地震の発生確率より低く算出されます。
   しかし、東南海地震の時に御前崎は隆起していないとみられており、駿河湾域地震の震源域(地震波を発生する領域)は御前崎の西側まで広がる可能性が否定できません。御前崎のすぐ西側に浜岡原子力発電所があり、原発については安全側の評価(最も強い揺れを与えるモデルによる評価)が必要です。

 海溝付近は水を含んだ軟らかい堆積物があるため、プレート境界はほとんど固着していません。このモデルでは海溝から深さ10kmまでのプレート境界は固着しておらず、すべっても地震波を発生しないとみなしています。

 断層の両側の岩盤にかかっている力(応力)は、断層のすべりで低下しますが、その量は東北地方太平洋沖地震と同じと見なしています。その結果、断層全体から放出されるエネルギーのマグニチュードが9.1の地震になっています。
 世界の地震の統計から、それ以上の応力低下が生じる確率は10%とみなしています。したがって「ほぼ最強の揺れをもたらすモデル」と言うべきかもしれません。

 じっさいには断層面の中で、とくに強い地震波を発生する領域があります。今回のモデルでは、その領域を「強震断層域」と呼ぶことにしています。そして断層全体から放出されるエネルギーを「強震断層域」に多く、そのほかの領域に少なく分配しています。

 強震断層域の配置は2003年のモデルを基本にしています。東海地震の領域では2001年のモデルを基本にしています。2001年の東海地震のモデルでは、震源断層内に強震断層域(当時の呼び方は「アスペリティ」をほぼ等間隔に機械的に配置しています。

 現実に地震が発生するときには、想定したとおりの場所が強震断層域になる保証はありません。そこで強震断層域を基本ケースの東方、西方、内陸寄りに動かしたケースも検討しています。

 プレート境界面だけでなく、プレート境界面から立ち上がって地表付近に達する「分岐断層」からも地震波が発生する可能性がありますが、このモデルには取り入れていません。

 この「強震断層モデル」から発生させた地震波により、いったん一定の固さの地盤での、各地の揺れの強さを求めます。そこから表層地盤の性質による増幅率を掛けて、それぞれの場所の地面の揺れの強さ(震度)を求めています。

 中央防災会議報告の巻末資料には、自治体ごとの最大震度の表があります。

中央防災会議南海トラフの巨大地震モデル検討会
南海トラフの巨大地震による震度分布・津波高について(第一次報告)
巻末資料

4、津波断層モデル

 東北地方太平洋沖地震では、固着が弱い海溝付近のプレート境界面が大きくすべりました。その結果、大きな海底地殻変動が生じて、大きな津波が発生しました。

 そこで、南海トラフ地震の予測でも、、揺れの強さを予測する「強震断層モデル」と別に、断層面を海溝(トラフ)まで広げた「津波断層モデル」を作っています。
 断層全体でのすべり量の分配は、フィリピン海プレートに沈み込み速度のちがいに比例させています(右下の図)。
 このモデルを超えるすべりが生じる確率は3%としています。

   東北地方太平洋沖地震の経験から、とくにすべりが大きい領域が一部に生じるモデルを11とおり作っています。左上の5枚の図は「駿河湾〜紀伊半島沖に大すべり域を設定したケース」です。

4、各地の津波の高さ

 それぞれの地点での、11ケースの最高値を示した図です。
 太平洋岸では、2003年モデルの予測の2倍以上の高さになっています。

(中央防災会議追加公表資料)南海トラフの巨大地震による最大クラスの津波高(分布地図)<満潮位>【各県版】(平成24年4月12日公表)
 今後、浸水範囲のマップが公表される予定。

2012年4月20日作成